ほんの少し昔、吉野川の鮎は、「桜鮎」と呼ばれていました。
昭和40年頃、多くの太公望で賑わう川辺で、ハイジャコという魚の釣り遊びをしていた子供達が、鮎の友釣りをする太公望さんに「桜鮎」を見せてもらったことがありました。
「ほうら、顔に桜の模様があるだろう。」
その時、子供達が見た鮎には、頬のあたりにちょうど桜色をした花びらのような形の美しい斑があったのです。
「吉野川で生まれた吉野の鮎には、この桜の花びらの模様があるんだよ。これが吉野川にしかいない桜鮎なんだよ。」
それからいつの間にか半世紀程の時が流れ、子供たちは大人になりました。そして、時代の変化とともに、「桜鮎」という言葉も聞かなくなりました。当たり前のように見ていた吉野川を遡上する鮎の姿ももう見ることがなくなりました。
だけど、「桜鮎」は、川で遊んだ時代の人々のふるさとの思い出の中に今も生きています。そして、いつかまた、私達大人が子供達に、
「ほうら、これが、吉野川の桜鮎だよ。」
と、誇らしげに見せて教えてあげることが出来る未来が来ることを祈ります。