「み吉野の吉野の鮎 鮎こそは 島傍も良き」・・・古事記に詠まれた吉野川を象徴する「鮎」ですが、その鮎も、古き時代から、吉野川流域で暮らしてきた人々のみならず、古の都人達にとっても最上級の食材であったことでしょう。
この地球の生態系の頂点にある私達人間の生命は、日々、他の生命を殺戮することによって維持されています。自然界の動植物のいのちを頂いて食し栄養とすることで、自身の生命を繋いでいます。
現代社会では、この自然界の中に生きている私達の生命の摂理を直接目にする機会はめったになくなりました。だけど、「生命」という問題を沈思熟考する時、自分が生きるということは、日々、他の生命の殺戮を繰り返し続けることで成り立っていることや、生きる為のこの悲しみを感じる感受性を持っていることに、私達は、気がつきます。
動植物への供養は、自然との協調の中に生きている生命観を表す「鎮魂の民俗」と言われます。この地に伝わる「鮎供養」は、吉野川の鮎を象徴として、生命の大切さと生命の尊厳への敬意と思いを込めることで、私達を人間存在の根源への思索へと誘い、自然の中に在る生命の原点に回帰する機会を与えてくれる伝統行事です。
一方で、人間もまた、誰にでもいつか必ず生命の終わりが訪れます。その時がいつ来るかは誰にも分からないことを、私達は、常日頃忘れて生きています。スピリチュアル・ケアという概念が今、医療や心理・介護の分野での重要課題となっています。
自然や生命について考える機会がこれほど無くなった現代社会の中で、「自然界の中に存在する生命の原点への想い」、そして、「生命という存在の不確かさを自覚しながら、如何に生きるべきかという思索」を取り戻す機会が、こうした伝統民俗行事の中には宿っているのです。
この地球上の自然という大いなる営みの中で生かされている様々な生命の繋がりを実感することで癒される悲しさがある・・・そして、未来に向かって生かされてゆく私達の生命が描き出す素晴らしい夢が見えてくることを祈りながら・・・
いのちのこと、地球のこと・考えてみませんか?